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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
「小説公園」1952(昭和27)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,456 字 · 52 页
村上貞助は、腑甲斐ないようすに腹をたて、五人のいる控小屋へ入ってきて、
「この有様はいったいなにごとか。ここは日本といっても、はるかの北のはずれの辺土である。せめて松前まで行ったら甲斐もあろうが、こんなところで気をゆるめて死んでしまったら、ロシアの土になったのも同然であろう。心得ちがいなやつらだ」
と立ち身のままさんざんに叱りつけた。
みなみな、それで人心地がつき、ここで眠りとおしたら、生きて故郷の山川の姿を見ることができぬと、たがいに励ましあった。
九月二日、松前へ送られ、函館奉行のお取調べがあった。十一月四日、松前から船に乗せられ、十二月四日、江戸に着いた。蝦夷会所でお調べがあり、翌十四年四月一日、尾州家へ引渡された。五月二日、勘定奉行からお取調べがあり、翌三日、五年ぶりで重吉は故郷に帰った。