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じゅうびょうしつにっし
重病室日誌
北条 民雄
「文學界」1937(昭和12)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,745 字 · 14 页
自分は今日まで自然の美しさといふものを味つたことはめつたにない。それどころか、何時でも自然に脅かされ、自然に虐げられ、果ては自然といふと先づ憎悪を感じて来た。だから今朝のやうな空が失はれると、あと暫くの間は重苦しく不安でならぬ。
十時頃外科出張あり。看護手その他が繃帯・ガーゼ等などを抱へてどやどやと這入つて来る。室内は膿臭でいつぱいになり、布団から顔を出してゐると息がつまりさうである。この病室には十四の寝台があるが、体に潰瘍や疵のないのは自分だけだ。右隣りにゐる李さんの如きは全身疵だらけで、文字通り満身創痍だ。両足共繃帯を除ると向う脛はべろりと皮がむけてゐて、真赤な肉が七八寸の長さで覗いてゐる。両腕共にその通りで、おまけに頭のてつぺんにまで疵がある有様だ。指も五本共べろりと皮がとれて、繃帯を巻いたあとはちやうど野球のミットをはめてゐるやうな恰好である。顔はどす黒く脹れ上つて、口がぐいッとひん曲つて、眼はもう薄明りだ。彼は飯を食ふ時には繃帯の間にフォークをさし込んで食ふ。「つくづく嫌んなつちやつた」と彼が言ふので、「いいかげんに死ぬんさ」と答へてやると、「思ふやうにや行かねえや」