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のざらし

野ざらし

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,100 字 · 39 页

青空文庫

そのことを、明敏な禎輔が見落す筈はなかった。「追っ払おうとしてるのだ!」としか昌作には思われなかった。そしてそれが、今迄凡てを許してくれていた禎輔であるだけに、昌作には不可解に思えるのだった。本当の心を聞きたい、その上で忍ぶべきなら忍んで九州へ行きたい、というのが彼の希望の凡てだった。

達子はふいに叫んだ。

「あなたはそんなに心まで曲ったんですか!」

率直な達子に対しては、昌作は何とも返辞のしようがなかった。

「私あなたをそんな人だとは思わなかった。」と達子は云い続けた。「私達があなたのためを思ってやってることを、あなたは、厄介払いをする気で九州なんかへ追いやるのだと思ってるのでしょう。いえそうですわ。あなたには人の好意なんてものは分らないんです。……これでも私達は、あなたの唯一の味方と思っていたんですよ。あなたが珈琲に入りびたったり、道楽をしたり、ぐずぐず日を送ったりしているのを、そして牛込の伯父さんにまで見放されたのを……それを私達は、始終好意の眼で見てきてあげたつもりですわ。そしてあなたが自分で云ってたように、いつかはあなたの生活が立て直るに違いないと、ほんとに信じていたんですわ。