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やこ

野狐

田中 英光

「知識人」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,615 字 · 39 页

青空文庫

貞操を守るようになった。

桂子は前に同棲していた異国人から、縞馬と呼ばれていたという。色の浅黒い、手足の小さい、小柄の女で、顔は平べったく、低い鼻の穴が大きく天井を向いている。化粧すれば、そうみっともない女でもなかったが、素顔の時は呆れるほど平凡な泥臭い百姓の娘さんだった。けれども、その疲労を知らぬ、太股に薄い縞模様のある肉体が、私を圧倒した。私は彼女によって初めて、肉体の恋を知らされたといってよい。

ところで私は、俗物たちが妾をもって平然としているように、一夫多妻主義で納まっていることはできない。道徳的には妻子のもとに帰るのが正しいと思われたし、新しい私の道徳からいえば、たとえ前身がなんであろうと、前の妻と別れ、より愛している女、桂子と一緒になることが正しいように感じられた。しかし、そこに四人の子供の問題がある。十八の六倍が容易にできないような桂子に、子供たちの育てられないのは、私にも分っていた。

そこで最後に昨年の暮、バカな私にも、桂子が異国製の菓子と煙草をかくし持っていたり、おまけに当時、ジフリーズで、ペニシリンの注射をさせてやっていた頃、彼女の浮気というより、その淫奔さに薄々、気づいていたので、また催眠剤を飲んで彼女と喧嘩の末、伊豆の妻子のもとに逃帰った。