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のぎくのはか
野菊の墓
伊藤 左千夫
「ホトトギス」1906(明治39)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,539 字 · 67 页
そう言われては僕も帰る訣にゆかず、母もそう言ったのに気がついて座敷へ上った。茶や御飯やと出されたけれども真似ばかりで済ます。その内に人々皆奥へ集りお祖母さんが話し出した。
「政夫さん、民子の事については、私共一同誠に申訣がなく、あなたに合せる顔はないのです。あなたに色々御無念な処もありましょうけれど、どうぞ政夫さん、過ぎ去った事と諦めて、御勘弁を願います。あなたにお詫びをするのが何より民子の供養になるのです」
僕はただもう胸一ぱいで何も言うことが出来ない。お祖母さんは話を続ける。
「実はと申すと、あなたのお母さん始め、私また民子の両親とも、あなたと民子がそれほど深い間であったとは知らなかったもんですから」
僕はここで一言いいだす。
「民さんと私と深い間とおっしゃっても、民さんと私とはどうもしやしません」
「いイえ、あなたと民子がどうしたと申すではないのです。もとからあなたと民子は非常な仲好しでしたから、それが判らなかったんです。それに民子はあの通りの内気な児でしたから、あなたの事は一言も口に出さない。それはまるきり知らなかったとは申されません。それですからお詫びを申す様な訣……」