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きんざんそうわ

金山揷話

大鹿 卓

「中央公論」1939(昭和14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,736 字 · 22 页

青空文庫

茂木とも佐々木とも私には十数年ぶり、卒業以来である。私達は今いずれもしかつめらしく洋服を着用に及んでいるが、いわばこれは人生の殻であろう。あの当時は卒業を間近かにひかえて、誰も彼も背広服のでき上るのを待ちわびる気持だった。新調ができると、ぎこちなく身につけ、ネクタイの結びかたを自分達もよくは知らずに教え合ったりしたものだ。恰も一刻も早く人生の殻を身につけようとするもののように……。皮肉にもいまその情景が、まざまざと私の脳裡に蘇ってくるのだった。

今夜は定山渓で泊ろうということになり、差支えのある茂木を残して、私達四人は自動車へ乗り込んだ。途中、車がある街角を曲る折だった。

「この宿屋だよ。例の、おやじが梯子段からころげ落ちたという……」

土田が私をかえりみて外面を指した。嘗つては札幌で一二を争う旅館だったそうだが、今は造りも古び、思いなしか座敷から洩れる灯影もまばらで、何処となく陰気臭く眺められた。

その宿屋に纏るはなしというのはこうである。もはや何年前のことであろうか。四五人の鉱山師仲間が何ヶ月も逗留しつづけていたのである。彼等は毎日のように額を集めては、何十万とか何百万とか途方もないことばかり口走っていたが、宿料の方はかさむ一方だった。