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きんどけい
金時計
泉 鏡花
「侠黒兒」少年文學、博文館、1893(明治26)年6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,568 字 · 12 页
大助これを見て地蹈を踏みて狂喜し、欄干に片足懸けて半身を乗出だしつ。
「も一番やれ!」
と大音声に呼ばわれば、舟なる壮佼声を揃えて、
「へいげん殺せ。」と絶叫す。
洋妾は耳を蔽いて卓子に俯し、へいげんは椅子に凭りて戦きぬ。
三郎は欣然として、
「日本人の馬鹿が、誑された口惜さに貴方を殺すという騒動です。はッはッ馬鹿な奴等だ。」
へいげんは色を失して、
「私、私、何を欺きました。」
「浜で御自分がおっしゃった言をお忘れですか。」
へいげんはあるいは呆れ、あるいは愕き、瞬もせで三郎の顔を瞻りたりしが、やや有りて首を低れて、
「決して欺きません、証拠がございまする。」
顔色土のごとく恐怖せる洋妾を励まして、直ちに齎らしめたる金貨百円を、三郎の前に差出せば、三郎は員を検してこれを納め、時計を返附して応接室を立出で、待構えたる従者を呼べば、声に応じて大助猛然と顕れたり。
三郎は笑ましげに、
「これをみんなに分けてやれ。」
大助は金貨を捧げて、高く示威運動艦隊に示しつつ、
「衆見ろ、髯から取ったこの百円を、若様が大勢に分けてやるとおっしゃる。」
その声いまだ訖らざるに、どっと興る歓呼の声は天に轟き、狂喜の舞は浪を揚げて、船も覆らむずばかりなりし。