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きんどけい

金時計

泉 鏡花

「侠黒兒」少年文學、博文館、1893(明治26)年6月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,568 字 · 12 页

青空文庫

怪しからん、どこでお拾いなすった。」と暴らかに詰れば、三郎少しも騒がず、

「そんなら掏摸が遺失たのでしょう。何しろ私は御門外の一町以内で拾って来ました。」

へいげんは大喝して、

「小僧、汝は掏摸だ。」

「そういう者が騙拐だ。」

「何を。」と眼を瞋して、はたと卓子を打てば、三郎は自若として、

「ちと仔細があって、貴下が人は知るまいと思っている事を、私はよく知っております。文明国の御方にも似合わない、名誉ということを御存じがありませんか。私はむしろ貴下の御為を思って計らうのですが、どうでございます。」

と朱唇大に気焔を吐けば、秘密のすでに露れたるに心着きて、一身の信用地に委せむことを恐るれども、守銭奴は意を決するあたわず。辞窮して、

「蒸暑い晩だ。」

とへいげんは窓に立寄りて海を望み、たちまち愕然として退りぬ。

「へいげん殺せッ。」

と叫ぶものあり。続いて起る吶喊の声。

月は中天にありて一条の金蛇波上に馳する処、ただ見る十数艘の漁船あり。篝を焚き、舷を鳴して、眼下近く漕ぎ寄せたり。こはこの風説早くも聞えて、赤髯奴の譎計に憤激せる草刈夥間が、三郎の吉左右を待つ間、示威運動を行うなり。