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きんどけい
金時計
泉 鏡花
「侠黒兒」少年文學、博文館、1893(明治26)年6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,568 字 · 12 页
まことや金一百円、一銭銅貨一万枚は、これ等の細民が三四年間粒々辛苦の所得なるを、万一咄嗟にこの大金を獲ば、蓋し異数の僥倖にして、坐して半生を暮し得べし。誰か手を懐にして傍観せんや。
翌日はとみに十人を加え、その翌日、またその翌日、次第に人を増して、遂に百をもって数うるに到れり。渠等が炎熱を冒して、流汗面に被り、気息奄々として労役せる頃、高楼の窓半ば開きて、へいげん帷を掲げて白皙の面を露し、微笑を含みて見物せり。
かくて日を重ねて、一町四方の雑草は悉く刈り尽し、赤土露出すれども、金時計は影もあらず。
草刈等はなお倦まず、怠らず、撓まず、ここかしこと索れども、金属は釘の折、鉄葉の片もあらざりき。
一家を挙げ、親族を尽し、腰弁当を提げて、早朝より晩夜まで、幾日間炎天に脳汁を煮られて、徒汗を掻きたる輩は、血眼になりぬ。失望してほとんど狂せんとせり。
されど毫も疑わざりき。渠等はへいげん君の富かつ貴きを信ずればなり。
渠等が労役の最後の日、天油然と驟雨を下して、万石の汗血を洗い去りぬ。蒸し暑き雑草地を払いて雨ようやく晴れたり。土は一種の掬すべき香を吐きて、緑葉の雫滴々、海風日没を吹きて涼気秋のごとし。