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きんどけい
金時計
泉 鏡花
「侠黒兒」少年文學、博文館、1893(明治26)年6月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,568 字 · 12 页
しかるに突然珍客ありて、告ぐるに金時計を還さん事をもってせり。へいげんは快然愁眉を開きしが、省みれは衷に疚しきところ無きにあらず。もし彼にして懸賞金百円を請求せんか。我にあらかじめ約あれば駟も及ばず、今はたこれをいかんせむ。
身を一室に潜めて、まずその来客を窺えば、料らざりき紅顔の可憐児、二十歳に満たざる美少ならんとは。這奴、小冠者何程の事あらん。さはあれ従者に勇士の相あり。手足皆鉄、腕力想うべしと、へいげん漫に舌を捲き、すなわち執事をして大助を遠ざけしめむとしたるなり。
大助は敵の我を忌むを識りて、小主公の安否心許なく、なお推返して言わんとするを、三郎は遮りて、
「宜しい彼室で待ってな。」
「だって若様。」
「可いよ。」
と眼もて語れば、大助は強うるを得ず、
「ええ、どこで待つのだ。案内しろ。」
「静にせんか、何という物言いだ。」
と三郎は警めぬ。
執事は大助を彼方の一室へ案内し、はたと閉ざして立去りける跡に、大助は多時無事に苦みつ、どうどうとしこを踏みて四壁を動かし、獅子のごとき力声を発して、満腔の鋭気を洩しながら、なお徒然に堪えざりけり。
応接室にては三郎へいげんと卓子を隔てて相対し、談判今や正に闌なり。