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きんば

金歯

小川 未明

「文芸」1935(昭和10)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页

青空文庫

」

「ちょっと、だれだかわからなかったのだ。」

「あまり、非常識だわ。従兄の顔を忘れるなんて、まぬけだわ。」

「セパードみたいな顔つきをしているので、だれかと思ったのさ。」

「聡さんは、来年から大学で、秀才という話じゃないの。」

「学校へいって、あんまり機械的に訓練されると、人間もセパードみたいな顔つきになるものかしらん。」

「そんなことばかりしか、考えていないのでしょう。お母さんは、どんな学校でもいいから、骨のおれないところへ、おまえを入れておけばよかったとおっしゃっていらしたわ。しかし、令ちゃんは、詩人よ。詩人は、書物からでなく、自然から学ぶという話よ」

「僕、今度かいている絵は、なかなかいいぜ。」

「そう。」

「原色だけを使って描いてみたが、純粋で、明るい、好きな感じが出せた。」

「令ちゃんは、いったい、単純なものが好きね。」

「ああ、なんでも単純に限る。単純で、素朴なものは、清らかだ。ちょうど、文明人より、原始人のほうが、誠実で、感覚的で、能動的で、より人間らしいのと同じだ。近世になってから、人間は堕落した。だんだんほんとうの美というものがわからなくなった。そこへいくと、まだ自然界は、原始時代からのままだ。