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きんば

金歯

小川 未明

「文芸」1935(昭和10)年3月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,108 字 · 14 页

青空文庫

一

一

「絵を描きたくたって、絵の具がないんだからな。」

あまり欠乏しているのが、なんだか自分ながら、滑稽に感じたので、令二は笑いました。

「いくらあったら、その絵の具が買えます。」

「さあ、ホワイトはなかった、それにグリーンもないと、まあ三円はいりますね。」

「もし、それくらいでいいのなら、私が、どうかして、こしらえてあげますよ。」

母親は、年のせいか、日の光が恋しいので、縁側の方に、小さな背中を向けて、答えました。

「なに、いますぐ描かなくたっていいんです。」

令二は、気の弱い母をいじめて、すまなかったと、淋しい気がしました。

そばで、一心にセーターを編んでいた、姉のさき子は、

「そんなこと口に出さなければ、いいじゃないか。」と、弟を上目でにらみました。

「描きたいから、描きたいといったのだ。」

こんどは弟が、口をとがらして姉をにらんだ。

「なんだ、そのかばのような顔は?」

「なんだ、乾しいわしのような目をして。」

二人が、言い争うと、母は、

「もう、けんかはよしておくれ、明日にでもお金をこしらえてきて絵の具を買ってあげますから。」といいました。

「お母さん、令二にそんなお金をおやりなさるなら、私にも毛糸を買ってちょうだいよ。