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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

針のめどが見えやしない。鳥目かしら――。」

ひとりごとを言いいい、糸のさきを噛んだ。

いきなり惣平次が、白髪あたまを振った。癇癪を起したのだ。盤をにらんで、ぴしりと、大きな音で、駒を置いた。

「えれえ風だ。吹きゃあがる。吹きゃあがる。風のまにまに――とくらあ。どうでえ庄太、この手は。面ああるめえ。」

「庄太、しょた、しょた、五人のなかで――。」

庄太郎は、「酔うた、酔た、酔た」をもじって、低声に唄った。持ち駒を、四つ竹のように、掌の中で鳴らした。

そして、炭のように黒いであろう戸外の闇を、ちょっと聴くような眼つきになって、

「なあに――。」

「おっと! こりゃあ! いや、風にもいろいろあってな、吹けよ、川風、上れよ、すだれ、の風なんざあ粋だが――おい、庄太、手前、砂利舟は、しっかり舫ったろうな。」

惣平次は、いま打った駒で、取り返しのつかなくなった盤面を庄太郎に気づかれまいとして、何げなく、ほかの話をしかけて注意を外らすのにいそがしかった。

が、庄太郎は、二十三の青年らしい、ほがらかな微笑をひろげていた。

「うふっ! 父、すまねえが、おらあ勝ってるぜ。」

ごろっと、後頭部へ両手をまくらに、引っくり返った。