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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

12 悲願百両

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,957 字 · 31 页

青空文庫

「なにしろ、二十年も、焼津船にお乗りになっていなさるのだからな。」惣平次が、おこうをかえり見た。

「はじめてお舟蔵へ上られたころから、存じあげているのだが、いまの庄公より年下の二十歳の少年衆だったよ。」

「まあ、それにしても、よく御無事でおっとめなすって――。」

母親のことばを、庄太は、そばから奪うように、

「おいらも、琉球へ行ってみてえな。ぶらっと見物して来るんだ。」

「話に聞けば、面白い土地のように思われるかもしれんが、なに、江戸に勝るところはござらぬよ。」

久住は、さかずきを置いて、にわかに酒が苦くなったように、ちょっと眉を寄せた。

何か思い出して、惣平次が、膝を進めた。

「お? そう言えば、いつかちょっとお話しなすった竜の手――竜手様とか、あれはいったいどういうことでござります。」

「竜の手、か。いや、何でもござらぬ。」

顔の前で手を振って、炉のけむりを避けながら、

「何でもござらぬ。」

繰り返した。

おこうが、好奇気に、

「竜の手――? 何でございます。」

「まあ、いわば手品――手品でもないが、切支丹の魔術とでも呼ぶべきものでござろうな。しかし、切支丹ではない。