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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

07 怪談抜地獄

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,998 字 · 32 页

青空文庫

耳を澄ますと玄内の寝息が安らかに洩れて来るばかり、暁近い寺島村は、それこそ井戸の底のように静寂そのもののすがたであった。

朝飯を済ますと同時に、挨拶もそこそこに寮を出て、伝二郎は田圃を隔てたほど近い長屋に、寮の所有者河内屋の隠居を叩き起した。思ったより話がはかどらなかった。その家は元八重洲河岸の叶屋のものだったが、ながいこと無人だったのをこの隠居が買い取ったものだとのことで、大須賀玄内殿に期限もなしに貸してあることではあり、かつは雨風に打たれた古家であるにもかかわらず、玄内さまもああして居ついていて下さるのだから、自分としては情において忍びないが、いつまで打っちゃっておくわけにもいかず、実は近いうちに取り毀して新しい隠居所を建てるつもりなのだと、いろいろの約定書や絵図面を取り出して、隠居は伝二郎の申し出に半顧の価値だも置いていないらしかった。押問答が正午まで続いた末、始めの言い値が三百両という法外なところまで騰って行って、とどのつまり隠居がしぶしぶながら首を縦に振ったのだった。どうしてあの腐れ家がそれほどお気に召したかという隠居の不審の手前は、あくまで好事な物持ちの若旦那らしくごまかしておいて、天にも昇る思いで伝二郎は蔵前の自宅へ取って返し、番頭を口車に乗せて三百両の金を拵え、息せき切って河内屋の隠居の