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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

10 宇治の茶箱

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页

青空文庫

」

と言いかけた常吉の言葉を取って、

「何ぞほかに自滅の因と思い当たるような筋合いはありませんかね。頭はこの家とは別して近しく出入していたようだが。」

と藤吉は眠そうに装って相手の顔色を窺った。

「さあ――。」と常吉は頭を掻いた。

「なにしろ、お内儀さんが三年前の秋に先立ってからというものは、旦那も焼きが廻ったかして、商売の方も思わしくなく内証もなかなか苦しいようでしたよ。が、こんな死様をしなけりゃならねえ理由も――あったようにゃあ思われねえが――いやこうと言っちゃなんだが、例の、そら、奥州路の探しものにさっぱり当たりがつかねえので、旦那もしじゅうそれが白髪の種だと言い言いしていましたがね。」

藤吉は聞耳を立てた。

「それが、その奥州路の探し物ってなあ何だね。まさか、飛んだ白石噺の仇打ちという時代めいた話でもあるめえ。」

「すると、まだ親分は徳松さんの一件を御存じねえと言うんですかい。」

と常吉は呆れて見せた。

「初耳ですね。」と藤吉は嘯いた。

「いったいその徳松さんてのはどこのどなたですい?」

「話せば永いことながら――。」

根が呑気な常吉はこうした場合にもこんなことを言いながら、少し調子づいて藤吉の顔を見詰めた。