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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき

釘抜藤吉捕物覚書

林 不忘

10 宇治の茶箱

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页

青空文庫

」

「と言うと?」藤吉は思わずきっとなった。

「ああに、夢なら夢でも正夢でごぜえますだよ。旦那の身体がお前さま、置場の梁にぶら下って。」

「だが、仙さん、お待ちなせえ。」

と彦兵衛はいつになく口数が多かった。

「あっしが昨夜お店の前を通った時にゃあ、旦那は帳場傍の大火鉢に両手を翳して戸外を見ていなすったが――。」

「止せやい。」

と藤吉が噛んで吐き出すように言った。

「その顔に死相でも出ていたと言うんだろう。」

「ところが。」と彦兵衛も負けていなかった。

「死相どころか、無病息災長寿円満――。」

「そこで。」

と藤吉は彦兵衛のこの経文みたいな証言を無視して、こまかに肩を震わせている仙太郎へ向き直った。

「お届けはすみましたかい。」

ごくりと唾を呑み込みながら、仙太郎は子供のように頷首いて見せた。

満潮と一緒に大根河岸へ上ってくる荷足の一つに、今朝は歳末を当て込みに宇治からの着荷があるはずなので、いつもより少し早目に起き出た荷方の仙太郎は、提灯一つで勝手を知った裏の置場へはいって行くと、少し広く空きを取ってある真中の仕事場に、宙を浮いている主人撰十の姿を発見して反けぞるほど胆を潰したのだった。