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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
10 宇治の茶箱
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,760 字 · 24 页
狂人のように家へ駈け込んだ彼は、大声を張り上げて家中の者を起すと同時に、番頭喜兵衛の采配で手代の一人は近所にいる出入りの医者へ、飯焚きの男が三町おいた番太郎の小屋へ、そして発見者たる彼仙太郎はこうして一応繩張りである藤吉の許まで知らせに走ったのであった。
「そうして、なんですかい?」
帯を結び直しながら藤吉が訊き返した。
「旦那方はもうお見えになりましたかい?」
ここへ来るより番屋の方が近いから、役人たちも今ごろは出張しているであろうと答えて、藤吉らもすぐ後を追っかけるという言質を取ると、燃えの低くなった提灯の蝋燭を庇いながら、折柄軒を鳴らして渡る朝風のなかを、来た時のように呼吸を弾ませて仙太郎は飛ぶように合点長屋の路地を出て行った。
勘次の鼾だけが味噌を摺るように聞えていた。藤吉と彦兵衛は意味ありげに顔を見合ってしばらく上框に立っていたが無言の裡に手早く用意を調えると、藤吉がさきに立って表の格子戸に手を掛けた。
「勘の奴は寝かしておけ。」
と独語のように彼は言った。微笑と共に、彦兵衛は規則正しく雷のような音の響いてくる納戸の方をちらと見返りながら歪んだ日和下駄の上へ降り立った。