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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
02 梅雨に咲く花
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,515 字 · 23 页
「出刃でもねえ。菜切りだ、菜切庖丁だ。人を殺すに菜葉切りのほかに刃物のねえような、こう彦、手前に訊くが、精進場はどこだ、え、こう?」
「へへへ。」彦兵衛は笑った。「寺さあね。」
「図星だ。」
藤吉も微笑んだ。一同は驚いた。そして、次の瞬間には、申し合せたように石垣を越えて随全寺の瓦屋根へ視線を送った。烏の群が空低く鳶に追われているその下に、石垣の端近く、羽毛のような葉をした喬木に黄色い小さな花が雨に打たれて今を盛りと咲き誇っているのが、射るように釘抜藤吉の眼に映った。
説明を求めるように人々がぐるりと彼の身辺に輪を画いた後までも、藤吉の眼は凍りついたようにその黄色い花から離れなかった。と、やがて、低い独語が、
「いやさ――寺でもねえ。」
と藤吉の唇を衝いて出たが、にわかに溌剌として傍らの彦兵衛の肘を掴むと、
「のう、彦、大の男がこの界隈から一時あまりで往復りのできる丑寅の方と言やあ、ま、どの辺だろうのう?」
「急いでけえ?」
「うん。」
「丑寅の方角なら山王旅所じゃげえせんか。」
「てえと、亀島町は――。」
「眼と鼻の間。」
「やい、彦、手前亀島町の近江屋まで走って――。