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つりしのしんきょう

釣り師の心境

坂口 安吾

「文学界 第三巻第六号」1949(昭和24)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,544 字 · 11 页

青空文庫

そうだろう。メダカじゃないか。けれども、三好達治は、自分一人では満足できず、私にも釣具一式を与えて、ぜひともやってみろという。

「君は流し釣りでタクサンだ。素人だからね。僕ぐらいになると、ドブ釣りをやる」

魚釣りはきまって天狗になるものらしい。三好達治はドブ釣りをやるんだと云って、ドブ釣り自体が名人の特技のようなことを言って力んでいたが、実際はてんで釣れなかったのである。鮎が小さいからダメなんだ、と、今度は魚のせいにした。

けれども、早川のドブ釣りは、風景的に雄大であった。すぐ、うしろが、太平洋なのである。早川が海へそゝぐところに澱んだ溜りがえぐられて、曲折して海へ流れている。この澱みが、早川でたった一ヶ所ドブ釣りのできる場所で、ここで糸をたれていると、背中へ太平洋のシブキがかかるのである。砂浜で、海に背をむけて鮎を釣ることになるのである。この風景だけは雄大きわまるものであったが、釣れる鮎はメダカにすぎないのであった。

詩人の熱狂ぶりにつりこまれて、私もひとつ釣ってみようという気持になった。私がそういう気持になった最大の原因は、鮎はカバリというものを用いて、一々エサをつける必要がないという不精なところが何よりピッタリしたからであった。