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つりしのしんきょう
釣り師の心境
「文学界 第三巻第六号」1949(昭和24)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,544 字 · 11 页
然し、伊勢甚へ戻って、酒をのむと、何年前の何月に、何貫釣れたというような大きなことばかり話し合っているのであった。
その翌年、私は小田原へ引越して、三好達治のウチへ居候をした。箱根から流れ落ちてくる早川が海へそゝぐところの松林に肺病患者のための小さな家がいくつかあって、私はその一軒へ住み、三好のところへ食事に通うのである。先日、汽車の窓から眺めたら、三好の家も私の居た家も、洪水に流れて、何もなくなっていた。
六月一日の鮎の解禁日に大いに釣ろうというので、三好達治は釣り竿の手入れに熱中していた。橋の上から流れを眺めると、何百匹ずつ群れて走っているのが見えるが、メダカのように小さいのである。海からいきなり箱根山で、魚の育つ流れがいくらもないから、特別小さいのだろう。メダカみたいな鮎を本気で釣るつもりなのかな、と、私は詩人の心境が分らなかった。けれども、詩人はまったく夢中で、小林秀雄と島木健作のところへ六月一日に鮎を食いに来いという案内状を発送した。
一般に鮎釣りというものは、漁場の権利みたいな料金を支払うのが普通である。ところが、早川だけはタダである。