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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

虱なんぞ一匹も居ない筈だ。便所はこの階段を降りると突き当りにある。便所の向うの扉を開くと隣りの店に出るから気をつけろ。……貴様は夜中に寝ぼけたり、小便を垂れたりしはしまいナ」

私は黙ってうなずいた。けれども、それと一緒に、今の今まで、あたたかい親切な人間とばかり見えていた叔父が、急に鉄のポストみたいに冷たい態度にかわって、傲然と私を睨み下しているのに気が付いて、又もビックリさせられた。しかし怖い事はちっともなかった。そうしてコンナ楽書きを勝手にしていいのか知らん……なぞと考えながら、壁に描かれている変テコな絵や文字を、一つ一つに見まわしていた。

その間に叔父は、クルリと私に背中を向けて、サッサと階段を降りて行った。……と思うと、もう麦稈帽を頭に乗っけて、夕日のカンカン照る往来に出て行った。私はその眩しいうしろ姿を見送りながら、

……やっぱし叔父は悪魔だったのかな。あの頭の真ン中のツルツル光っている処を、鉄鎚でコツンとやっても構わないのかナ……。

なぞと、ボンヤリ考えていた。

叔父は毎朝八時半頃から店に出て来た。そうして肥った身体を自分の椅子に詰め込んで、新聞を読んだり、手紙を書いたりしたあとは、入れ代り立ち代り電話をかけて来るお客や、店に押しかけてくる椋鳥連に向って、トテモ景気のいい……その癖、子供の私