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かなづち

鉄鎚

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,659 字 · 62 页

青空文庫

そこは一方が押入れになっている天井の低い八畳位の北向きの室で、取引所前の往来を見下した高さ四尺位の横一文字の一方窓に、真赤に錆びた鉄の棒と磨硝子の障子が並んでいたが、そこからさし込む往来の照り返しで、室の中は息苦しい程蒸し暑かった。真黒い天井からブラ下がった十燭の電球は蠅の糞で白茶気ていた。その下の畳はブクブクに膨れて、何ともいえない噎せっぽい悪臭を放っていた。左右の壁や、襖や、磨硝子の窓には、青や赤のインキだの、鉛筆だの筆だので、共同便所ソックリの醜怪な楽書きが、戦争みたいに押し合いヘシ合いかき散らしてあった。

叔父は窓をあけてホコリ臭い風を入れた。それから押入れを一パイに開いて、そこに投げ込んである二三枚のボロ夜具だの、蚊帳だの、針金で鉢巻をした大きな瀬戸火鉢だの、古い新聞紙や古電球なぞをジロジロ見まわしているようであったが、やがて、今までとは丸で違った、底意地の悪い声を出しながら私をふり返った。

「……いいか……貴様は今夜からここで、店の帳簿方と一所に寝るんだぞ。蒲団はあとから俥屋が持って来る。貴様のオヤジのだけれども消毒してあるから大丈夫だ。