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ぎんざアルプス
銀座アルプス
寺田 寅彦
「中央公論」1933(昭和8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,830 字 · 26 页
あろう。その時が今から的確に予報できればどこかでネオンガスの買い占めが起こるかもしれない。しかし、降雹がなくとも、狂風にあおられた街頭の雑品が飛んで来てぶつかれば結果は同様である。その時のために今から用心したいと思う人は、簡単に金網で囲んでおけばいいと思うが、なんでもあすの用心をするということはおよそ近代的でないらしい。
暴風の跡の銀座もきたないが、正月元旦の銀座もまた実に驚くべききたない見物である。昭和六年の元旦のちょうど昼ごろに、麻布の親類から浅草の親類へ回る道順で銀座を通って見たときの事である。荒涼、陰惨、ディスマル、トロストロース、あらゆる有り合わせの形容詞の総ざらえをしても間に合わない光景である。いつもは美しく飾り立てた小売り店の表には、実に見すぼらしい明治時代の雨戸がしめてある。大商店のショウウィンドウにははげさびた鎧戸か、よごれた日除幕がおりている。死に物狂いの大晦日の露店の引き上げた跡の街路には、紙くずやら藁くずやら、あらゆるくずという限りのくず物がやけくそに一面に散らばって、それがおりからのからび切った木枯らしにほこり臭い渦を巻いては、ところどころの風陰に寄りかたまって、ふるえおののきあえいでいるのである。