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ぎんざアルプス
銀座アルプス
寺田 寅彦
「中央公論」1933(昭和8)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,830 字 · 26 页
言わば白粉ははげ付け髷はとれた世にもあさましい老女の化粧を白昼烈日のもとにさらしたようなものであったのである。
これに反してまた、世にも美しいながめは雪の降る宵の銀座の灯の町である。あらゆる種類の電気照明は積雪飛雪の街頭にその最大能率を発揮する。ネオンサインの最も美しく見えるのもまた雪の夜である。雪の夜の銀座はいつもの人間臭いほこりっぽい現実性を失って、なんとなくおとぎ話を思わせるような幻想的な雰囲気に包まれる。町の雑音までが常とは全くちがった音色を帯びて来る。ショウウィンドウの中の品々が信じ難いような色彩に輝いて見えるのである。そういうときに、清らかに明るい喫茶店にはいって、暖かいストーブのそばのマーブルのテーブルを前に腰かけてすする熱いコーヒーは、そういう夢幻的の空想を発酵させるに適したものである。
中学校で教わったナショナルリーダーの「マッチ売りの娘」の幻覚のように、大きなクリスマストリーが、神秘的に光り輝く霧の中に高く浮かみ上がる。あらゆる過去へのあこがれと、未来への希望とがその樅の小枝の節々につるされた色さまざまの飾り物の中からのぞいているのである。