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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

200 死骸の花嫁

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,163 字 · 25 页

青空文庫

傷は左乳の上、薄物の紋付は紙よりも脆く、たった一と突き心の臓をえぐって、声も立てずに死んだ様子。女持の華奢な短刀が、ふくよかな花嫁の胸に突っ立って、朱羅宇のように燃えているのも凄惨です。

「娘。これ、どうしたことじゃ」

父親の佐仲は、血潮に汚れるのも構わず、娘の身体を駕籠から抱きおろしかけましたが、フト其処が――娘が今宵嫁入るはずの、弥左衛門町の田原屋の店先だった事に気がつくと、

「恐れ入るが、田原屋殿。このまま立ち還るにしても、一応の手当をいたしたい。どこかの隅なりと、お場所を拝借いたしたい」

斯う人垣の後ろに見える、田原屋の主人久兵衛に声を掛けるのでした。

「御尤も。恐れ入りますが、此方からお入りを願います」

田原屋久兵衛は先に立って、路地の奥から裏口へと案内したのです。さすがに店先から、商人の家へ死骸を入れる気にはならなかったのでしょう。

死骸は二人の駕籠屋に持たせて、後ろからお喜美の父親秋山佐仲と、仲人の伊賀屋源六夫婦、それに当夜の聟――田原屋の伜田之助などがつづきました。

死の花嫁は、斯うして新聟の家へ、冷たい骸となって担ぎ込まれたのです。