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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

と皮肉交りに云い、玄関から追い返す。さっき児玉さんが、「二時間以上もそんな過激な指壓をしたのは良くなかったですな、あるいはそれが直接原因になったかも知れませんな」と云ったのを、敏子も聞いていたからである。(児玉さんは真の原因が他にあることを知っていて、いささか私を慰めるつもりで、責任を指壓に持って行ったのかも知れない)「私があの人を紹介したのが悪いのでございます、えらいことをいたしました」と婆やがしきりに詫びを云う。

三時過ぎに、「ママ、少し横にならはったらどう」と敏子が云うので、しばらく睡眠を取らして貰うことにする。ただし、寝室には病人が寝ているし、敏子や看護婦が詰めているし、茶の間もこの際は出入りが多い。敏子の部屋が空いているけれども、彼女は自分が使わない時でも他人に使われることを嫌い、襖や本箱やデスクの抽出等に悉く鍵を掛けているので、私もめったにはいったことがないのである。で、二階の書斎を貸して貰うことにして、板敷の床に夜具布団を敷いて寝る。これから当分、看護婦と私がときどき交代でここに寝ることになりそうである。しかし床にははいってみたが、とうてい寝られそうもないので諦める。