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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

私も傍に付き添う。木村は椅子に掛け、私は夫の寝台(私の寝台には病人が寝ているので)に腰掛けて、二三のことを話し合う。病人の鼾がこの時目立って雷のごとくになる。(ほんとうの鼾かしら? と、ふとそんな気がする。私の顔に危惧の色が浮かんだのを見て、木村も同じことを考えたらしかったが、もちろん二人とも口に出しては云わなかった)午後一時木村辞去。看護婦が来る。小池という可愛らしい二十四五歳の婦人。敏子も来る。私はようやく手が空いたので、この間に食事する。昨夜以来何も食べていなかったのである。

二時相馬博士来診。児玉さんも見える。今朝と容態の変ったところは、昏睡状態に陥ったことと、八度二分ほど発熟したことである。博士の所見も大体児玉さんと違わないらしい。博士もバビンスキー反射を検べたが、睾丸の両側を擦る検査(提睾筋反射という由)はしなかった。瀉血もあまりしない方がよいというのが、博士の意見らしかった。その他こまごまと専門語で児玉さんに注意が与えられる。

博士と児玉さんが去ったあとで、今日も指壓師が治療に見えた。敏子が出て、「あなたの治療のお蔭で父はこういう結果になりました」