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かぎ

鍵

谷崎 潤一郎

「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页

青空文庫

私が匙で掬って食べさせる。病人は小池さんよりも、なるべく私に身の周りの世話をして貰いたがっている風が見える。

十時過ぎに尿意を催す。溲瓶を当ててみるがやはり出ない。小池さんが導尿しようとすると、それを嫌うらしく、カテーテルをあっちへ持って行けという風な手つきをする。仕方なくまた捜瓶を当ててみる。十数分経過しても依然として出て来ない。ひどく苛々する様子である。「気持がお悪いでしょうけれども、これで出しておしまいになった方がようございます。ね、そうなさいませ、一遍にお楽になりますよ」と、小池さんが子供を諭すように云って、またカテーテルを持ち出す。病人は何か分らないことを繰り返して云い、手で何ごとをか示そうとするごとくである。小池さん、敏子、私、三人でしきりに聞いてみる。結局、「カテーテルを使うならお前が使ってくれ、敏子と看護婦はあっちへ行っていろ」ということを、私に向って話すのであるらしい。カテーテルは看護婦でなければ扱うことができないのであるから、小池さんに導尿して貰わなければならないことを、敏子と二人で辛うじて納得させる。

正午病人が昼食を取る。