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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
大体朝と同じような食事であるが、食慾はかなりあるように思える。
午後零時半木村が来る。昏睡から覚めたこと、意識が少しずつ回復しつつあるらしいこと、木村という名を口にしていたように思えたこと、等々を告げ、今日は玄関で帰って貰う。
午後一時児玉さん来診。経過良好、まだ油断はならないがこの分なら順調であると云う。血壓最高が一六五、最低一一〇。体温三七度二分に低下。今日もバビンスキー反射と提睾筋反射の検査をする。(提睾筋検査の時、病人がどんな顔をするかと思って懸念していたが、どんよりとした、無感覚な瞳を虚空に向けて、されるがままにされていた)葡萄糖、ネオフィリン、ヴィタミン等を静注する。
発病のことは努めて人に知らせないようにしていたのだが、追い追い学校方面に知れてしまい、見舞客、電話の問い合せ等が午後からときどきある。果物籠、花束等を方々から貰う。関田町のマダムが見え、自分の夫と同病であることを知って大いに同情してくれる。そして、これも家の庭に咲いたのですと云ってライラックの花を置いて行く。敏子がそれを瓶に※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)して病室に運び、「パパ、マダムが庭のライラックを切って来て下すったのよ」