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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
正月四日の朝、彼が書棚の水仙の花の前にわざと抽出の鍵を落しておいたのは、私に日記を読んで貰いたくてたまらなくなった証拠であるが、そんな小細工をしてくれないでも、私はとうから盗み読みをしていたのであることを、ここで白状することにしよう。私は私の一月四日の記において、「私は(夫の日記帳を)決して読みはしない。私は自分でここまでときめている限界を越えて、夫の心理の中にまではいり込んで行きたくない。私は自分の心の中を人に知らせることを好まないように、人の心の奥底を根掘り葉掘りすることを好まない」と云っているが、ほんとうを云えばそれは虚言である。「私は自分の心の中を人に知らせることを好まない」けれども、「人の心の奥底を根掘り葉掘りすること」は好きなのである。私は、彼と結婚したその翌日あたりから、ときどき彼の日記帳を盗み読む習慣を持ち始めていた。私は彼が「その日記帳をあの小机の抽出に入れて鍵をかけていることも、そしてその鍵を時としては書棚のいろいろな書物の間に、時としては床の絨緞の下に隠していることも、とうの昔から知ってい」たのであり、決して「日記帳の中を開けて見たりなんかしたことはない」