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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
どころではない。ただ今までは、われわれ夫婦の性生活につながりのある問題はあまり扱われていたことがなく、私には無味乾燥な学問的な事柄が多かったところから、めったに身を入れて見たことはなかった。時折ぱらぱらとページをめくってみる程度で、わずかに「夫のものを盗み読んでいる」ということだけに、或る満足を覚えていたに過ぎなかったのであるが、彼がそのことを記すことを「恐レヌ※(コト、1-2-24)ニシタ」今年の正月一日の記から、私は当然の結果として彼の記述に惹き付けられた。私は早くも正月二日の午後、彼が散歩に出かけた留守中に、彼の日記の書き方が今年から変化していることを発見した。ただし私が盗み読みをしていることを夫に秘していたのは、生来「知ッテイル※(コト、1-2-24)デモ知ラナイ風ヲ装」うのが好きであるためばかりではない。盗み読んでは貰いたいのだが、読んでも読まない風をしていてくれるようにというのが、恐らくは夫の注文であるらしいことをも、察していたからである。
彼が私を、「郁子ヨ、ワガ愛スルイトシノ妻ヨ」と呼び、「何ヨリモ、僕ガ彼女ヲ愛シテイル※(コト、1-2-24)」は「偽リノナイ※(コト、1-2-24)デ」