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かぎ
鍵
谷崎 潤一郎
「中央公論」中央公論社、1956(昭和31)年1月、5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,182 字 · 200 页
が、一つには、そうすれば他日夫の撮影した裸体写真を、自分も手に入れることができるようになることを、期待したからなのであろう。そしてその方が主たる目的だったのであろう。夫がやがてポーラロイドで満足できず、ツワイス・イコンを使うようになり、それを現像する役目が木村に廻って来るようになるのを、―――細かい先の先まではどうか知れないが、大体そういうようなことが起り得ることを、木村は恐らく見通したのであろう。
二月十九日に、「敏子の心理状態が私には掴めない」と書いているが、実は或る程度は掴めていた。今述べたような工合で、私は彼女がわれわれ夫婦の閨房の情景を木村に洩らしたであろうことは、ほぼ推していた。彼女は木村を、心密かに愛しているのであり、それゆえに「内々私に敵意を抱きつつある」ことも分っていた。彼女は、「母は生れつき繊弱なたちで過度の房事には堪えられないのに、父が無理やりに云うことを聴かせ」ているのであると解し、その点では私の健康を気づかい、父を憎んでいたのであるが、父が妙な物好きから木村と私とを接近させ、木村も私もまたそれを拒まない風があるのを見て、父を憎むとともに私をも憎んだ。