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かがみのなかのつき
鏡の中の月
宮本 百合子
「若草」1937(昭和12)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,290 字 · 15 页
瀧子は複雑な腹立たしさを、「私、いやだ」と、単純にはっきりした言葉で表現した。
「そんなのってありゃしない。女の一生をみんな何と思っているんだろう!」
そう言い切ると、このいきさつが始ってこのかた堪えていた涙が急に瀧子の眼から溢れた。
「そんなことまで口実に利用して……」
ゆき子は「そうなのさ!」善良さまる出しの同意でうなずいた。
「全くそうなんだけれど――こんな時期だから、うまく切り抜けないと……いろんな誤解されかねないから――なまじっか山口が有力者の端くれだもんだから本当に始末がわるいったらありゃしない」
狭い土地の環境では、山口ほどの男でもモーニング一着でも身につければ、青年学校の主事とか何とか相当の口の利き得るのは実際なのである。瀧子は、それが一番無念な気がした。
「かまやしない、私、どこまでだって頑ばる。ほかのことと違うじゃないの。それで学校やめさせるような卑劣なことをやるならやればいい」
「なんて生憎なんだろう……」
歎息するゆき子の悄然とした雀斑のある顔を見ると、瀧子はその弱腰を非難する気も失せるのである。あちこちで召集が下るようになってから、村役場で婚姻届の受付が殖えた。