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きょうかしのぶんしょう

鏡花氏の文章

中島 敦

「学苑」1933(昭和8)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,456 字 · 7 页

青空文庫

これは、新感覚派の諸作家の表現法が、単なる一時の雷同ひょっとした思いつき、に止っていたのに反して(横光氏などの場合は、そうとばかりも言いきれないが)鏡花氏のそれが、何よりも、氏自身の中から生れた、身についた表現法であることの証拠であろう、と私は思う。実にかくの如く突兀・奇峭にして、又絢爛を極めた言葉の豪奢な織物でなくては、とても、氏の内なる美しい幻想を――奇怪な心象風景を――写し出すことは出来ないのである。氏の文章は、だから、他人の眼には如何に奇怪にうつろうとも、氏自らにとっては、他の何物をもっても之にかえることのできない、唯一無二の表現術なのである。かかる作者自身の感情や感覚の裏打ちがあればこそ、氏の文章は、かくも人をひきつけるのである。単なる、きまぐれや思いつきだけであったなら、三十年の長い年月の間に必ずや、化の皮を現わしたことに違いないと、私は考えるのである。

(昭和八年七月発行、「学苑」第一号)