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とうそう

闘争

小酒井 不木

「新青年」1929(昭和4)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页

青空文庫

時間後であることをたしかめた。それから僕は北沢家に出張して現場の模様をしらべ、なお、遺書の上の血痕を検べたが、人工的に按排された形跡は一つも発見することが出来なかった。

このうち胃腸の内容検査は、色々の面白い事実を教えてくれた。無論それは事件とは関係のないもので、消化生理の上から見て興味あることだが、とてもその委しいことは今書いて居れぬから、他日教室へ来て鑑定書を見てくれたまえ。いずれにしても、僕の鑑定の結果では、他殺と見るべき根拠は何一つ発見されなかったのである。

あくる日、僕は、毛利先生の部屋をたずねて、解剖の結果その他を逐一報告した。さすがにその時は、熱心に聞いて下さったが、僕の報告を終るなり、先生は、

「それじゃ、自殺と考えても差支ないね。若しそれが他殺だったら、たしかに奇蹟だ」と、言われた。

ところがK君。その奇蹟であることが、皮肉にも、それから一時間の後に起ったのだった。といっては少し言い方が変だが、実は、福間警部がたずねて来て、容疑者の緑川順が、北沢を殺したことを自白したから、毛利先生に警視庁へ来て、緑川を訊問して、その精神鑑定をしてほしいと頼みに来たからである。