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とうそう

闘争

小酒井 不木

「新青年」1929(昭和4)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页

青空文庫

これをきいた毛利先生の態度は急に一変した。先生はその瞬間に以前の毛利先生となられたのである。「他殺だったら、たしかに奇蹟だ」と断定されたほど、他殺説の割りこむ余地のない事情のところへ、他殺を自白したのだから、毛利先生は急に興味をもってみずから、取調べて見ようという気になられたにちがいない。

「福間君。緑川の自白したことを、まだ北沢未亡人には告げないだろうね」

「告げません」

「よし、それではこれからすぐ出かけよう」

僕等三人はやがて警視庁へ自動車をとばせた。自動車の中で毛利先生は、福間警部に向って、緑川の自白の趣をたずねられた。警部の話したところによると、かねて彼は北沢夫人と恋愛関係をもって居たが、北沢夫人から、北沢がピストルを買ったこと、冗談半分に文学者A氏の遺書の一節をうつして持って居ることをきゝ、自分も同じピストルを買って、夫人に内証に北沢を亡きものにしようと決心し、その日、夫人が買物に出かけた後、ひそかにしのびこんで書斎へ行くと、北沢は椅子に腰かけて食後の微睡をして居たので、これ幸いと、うしろにしのび寄り、自分のピストルで射殺し、たおれるのを見すまして、手にそのピストルを握らせ、それから机の抽斗から、北沢のピストルと遺書を取り出し、ピストルはポケットに入れ、遺書は机の上に置いて、再びしのび出たという