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とうそう
闘争
小酒井 不木
「新青年」1929(昭和4)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,079 字 · 38 页
「いゝかね。僕が一生懸命になって詮索した北沢の目的は、僕に北沢の目的を詮索させることにあったのだ。
「然らば次に起る問題は、何故に北沢が、それだけの簡単な目的のために自己の生命までも奪ったかと言うことだ。北沢という人は、今回の事件ではじめて僕に交渉をもったゞけで、少くとも生前にはあかの他人であった。その人が、そのようなことをするとは、あり得ないことだ。
「その、あり得ないことがあるについては、そこに、それを正当に説明し得る理由がなくてはならない。そうしてそれを説明し得る唯一の理由は、北沢自身が、少しもそれを知らないということでなくてはならない。つまり北沢自身投書と遺書とを書いた目的を少しも知らなかったというより他にないのだ。
「しかも、投書と遺書とは北沢自身の筆蹟である。して見れば、この二つを北沢は無意識の状態で書いたにちがいない。然るに遺書は生前すでに夫人に示したくらいであるから、北沢自身は書いたことを意識して居た筈である。すると北沢は無意識に書いて置きながら、意識して書いたように思って居たと考えねばならぬのだ。
「涌井君。無意識で書いて、それを意識して書いたように思うのは、催眠状態に於て書かされ、あとでそれを意識して書いたつもりになるよう暗示された時に限るのだ。