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あなんとじゅじゅつしのむすめ

阿難と呪術師の娘

岡本 かの子

「読売新聞」1928(昭和3)年5月6日~6月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,425 字 · 58 页

青空文庫

これが一生にたった一度のお願いなのです。ですからどうかお母さんの術を使って、あの方をここへお呼び下さい。

老女 ――禁ぜられた呪いを犯すときには、お祖父さまの代から燃え続いて居るこの炉の火が消えて仕舞うのです。そうしたらわたし達は何で生活出来るだろう。

娘 ――わたしに今要るのは、喰べ物でも飲みものでもありません。ただあの方のお姿です。お母さん、わたしは恋しさに死に相です。

老女 ――可哀相に、若し効くものなら祈ってもやり度いのだ。が、たとえわたし達二人が明日から饑え死に仕様とも、ああしかしこればかりは、わたしの力にも及ばないことだ。

娘 ――お母さん。お母さん。わたしは今まであなたを生みの親の親しみから、ただ甘えてお母さんと呼んで居ました。今、この焦がれるような苦しみに追い立てられて、わたしは死にもの狂いになってあなたに縋りつきます。魂の底から、お母さんと呼んで縋りつきます。ですからお母さんも、いのちの底から真剣のお母さんになって救って下さい。どうぞ! どうぞ!

(老女はしばらくうつむき、涙に暮れて居る。が再び顔を上げた時には決然たる表情で顔が物凄く変って居る。