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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页

青空文庫

第一飯にしてからが、ぴか/\光る黒塗りの飯櫃に入れられて、暗い所に置かれている方が、見ても美しく、食慾をも刺戟する。あの、炊きたての真っ白な飯が、ぱっと蓋を取った下から煖かそうな湯気を吐きながら黒い器に盛り上って、一と粒一と粒真珠のようにかゞやいているのを見る時、日本人なら誰しも米の飯の有難さを感じるであろう。かく考えて来ると、われ/\の料理が常に陰翳を基調とし、闇と云うものと切っても切れない関係にあることを知るのである。

○

私は建築のことについては全く門外漢であるが、西洋の寺院のゴシック建築と云うものは屋根が高く/\尖って、その先が天に冲せんとしているところに美観が存するのだと云う。これに反して、われ/\の国の伽藍では建物の上にまず大きな甍を伏せて、その庇が作り出す深い廣い蔭の中へ全体の構造を取り込んでしまう。寺院のみならず、宮殿でも、庶民の住宅でも、外から見て最も眼立つものは、或る場合には瓦葺き、或る場合には茅葺きの大きな屋根と、その庇の下にたゞよう濃い闇である。時とすると、白昼といえども軒から下には洞穴のような闇が繞っていて戸口も扉も壁も柱も殆ど見えないことすらある。