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いんえいらいさん

陰翳礼讃

谷崎 潤一郎

「経済往来」1933(昭和8)年12月号、1934(昭和9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,020 字 · 61 页

青空文庫

これは知恩院や本願寺のような宏壮な建築でも、草深い田舎の百姓家でも同様であって、昔の大概な建物が軒から下と軒から上の屋根の部分とを比べると、少くとも眼で見たところでは、屋根の方が重く、堆く、面積が大きく感ぜられる。左様にわれ/\が住居を営むには、何よりも屋根と云う傘を拡げて大地に一廓の日かげを落し、その薄暗い陰翳の中に家造りをする。もちろん西洋の家屋にも屋根がない訳ではないが、それは日光を遮蔽するよりも雨露をしのぐための方が主であって、蔭はなるべく作らないようにし、少しでも多く内部を明りに曝すようにしていることは、外形を見ても頷かれる。日本の屋根を傘とすれば、西洋のそれは帽子でしかない。しかも鳥打帽子のように出来るだけ鍔を小さくし、日光の直射を近々と軒端に受ける。けだし日本家の屋根の庇が長いのは、気候風土や、建築材料や、その他いろ/\の関係があるのであろう。たとえば煉瓦やガラスやセメントのようなものを使わないところから、横なぐりの風雨を防ぐためには庇を深くする必要があったであろうし、日本人とて暗い部屋よりは明るい部屋を便利としたに違いないが、是非なくあゝなったのでもあろう。