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かいだん
階段
海野 十三
「新青年」博文館、1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,588 字 · 32 页
その生きものを見ていると身体がフラフラする。身体が言うことをきかなくなる。まだ時間が切れないのかな、と思った。
すると今度は階段の下からまた一人、僕としては最も正視するに耐えない「袴の無い若い職業婦人」が現われた。その欄へ一本のブルブル震えた棒を横にひくと、恐いもの見たさに似た気持で、その白い脛をのぞきこんだ。僕はあんなに魅力のある脛をみたことがない。実にすんなりと伸びた脛だった。ふくら脛はむちむちと張りきり、乳房のように揺いでいた。向う脛の尖ったふちなどは想像もできないほどまんまるく肉がついていた。その色は牛乳を凍らしてみたほどの密度のある白さだった。そのきめの細い皮膚は、魚のようにねっとりとした艶とピチピチした触感とを持っていた。その白い脛が階段の一つをのぼる度毎に、緋色の長い蹴出しが、遣瀬なく搦みつくのであった。歌麿からずっと後になって江戸浮世絵の最も官能的描写に成功したあの一勇斎國芳の画いたアブナ絵が眼の前に生命を持って出現したかのような情景だった。その白い脛が階段を四五段のぼると、どうしたものか丁度僕の鼻の先一尺というところで突然、のぼりかけたままピタリと階段の上に停ってしまったものだから僕は呼吸のつまるほど驚いた。