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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

八千円は兵六さんにとっては久しぶりの大金だった。この金をにぎりたいために、ここのところずっと彼はあれやこれやと知恵の限りをつくしていたともいえる。その知恵はどっちをむいてもうそをつくことでしかみがかれなかった。しかし、ともかくもこれでしかおせいや二三子の信用をとりかえすことはできないと思い、いちずにうそを重ねたのである。けっきょく、思いもよらぬところでその金はつかめた。もっとも力の弱いところから、だましどりをしたのだ。そう思うと彼の心は曇った。ふところがゆたかなのに、こんなにも気のおもる経験ははじめてだった。うらめしそうな音枝の顔と、無邪気な、しかし最後には不安を感じだしていたらしい夏樹のおもかげが、兵六さんの胸の奥をチクチクと刺す。久しぶりの良心のとがめだった。

――郵便ででも、送りかえそうか……

ちらりと二三子やおせいの顔がうかぶ。また馬鹿なことを! とどなられそうな気がする。

――やっぱりあいつらを、あっといわせてやろうかな……

そのよろこぶさまを想像して、無理にそっちへ気をむけてはみたが、だめだ。金のできた感激がまるでない。駅前の陸橋を渡りきったところで、彼は左へ曲る歩道のさくに両ひじをもたせ、はるかな町並を見わたした。