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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
「へえ。もっと早く気がつけばよかったね。」
ふたりはつれ立って銭湯へ出かけ、久しぶりにいさかいのない夜をすごした。こんな毎日だと、どんなによかろうと思ってはみてもそうはゆかない。朝になるとおせいは飯も食べずに出かけた。夫のためにやわらかい飯をなべにしかけて、
「おとうさん、そんならまた、ちょいちょいもどってきますからね。あんたも、もうけたら一銭でもためといてくださいよ。」
朝食をすますと兵六さんはきのうとは少しばかりちがった気もちで家を出た。ほうきはやはり五本である。彼はゆうべの予言におどらされているかのように、一軒一軒聞いてまわった。
「ごめんください。ほうきはいかがですか。おざしきぼうきにしゅろぼうき――」
すると十軒のうち九軒、いや三十軒のうち二十九軒までが、奥さんはつんとした顔で、同じ答えなのだ。
「まにあってますわ。」
あとはもう、残飯をあさりにきた犬のように無視され、敵視される。
「お安くしときますがね。市価の半額でいかがですか。」
「まにあってるのよ。」
「ただでいかがですか。」
わざとにやっとして次の家へゆく。それでも三十軒のうちの一軒ぐらいはまともに相手をしてくれる。