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ざっきょかぞく
雑居家族
壺井 栄
「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页
見ぬかれた――と感じたからだ。白衣の女医は職業的に浜子の手首をにぎりながら、
「いつでしたの?」
その、複雑な質問に浜子は思わずまっかになった。
抗がうことのできぬ権威の前に立たされたような気持で、だまっていた。神妙らしくしているほか、手も足も出ない立場なのだ。
「どうしました。」
「…………」
どうもこうもない。わけはさっき、看護婦をとおしていっているではないかとばかりに、浜子はしばらくだまっていたが、それでは事が運ばないとさとって、
「人工中絶って、申しましたんですけど。」
それを聞くと、女医のぬれたような口もとに微笑がわき、目に光りがましたように思えた。浜子は思わずうつむき、
「おねがい、いたします。」
不覚にもぽろっと涙がこぼれた。
「それはわかってますよ。でも、理由は?」
「あの、困るんです。」
「生活が?」
「はい。」
それでかたづくものならとほっとする浜子に、
「だんなさまは、ご承知?」
「…………」
「失礼だけど、あなた、結婚しないで子供作ったんじゃないの?」
「…………」
「そうなのね。どこで、どうして?」
やさしい口調ながらそれは、いちいち浜子の心を針でつき、かつてないはじを感じさせた。