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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

「思うさ。ひとりっ子なんてみじめなものさ。おれはときどき、あいつらがうらやましくなるよ。」

ひとりむすこの文吉ははるかな思いを目にこめて子供たちをながめる。もっともきげんのよいときの夫婦である。文吉に金がはいって、酒屋や新聞屋や牛乳屋に払いのいいわけをしなくてよいような経済状態のときだ。大した欲も徳もなかった。

そんな彼ら一家に一大事件が起った。ある雑誌の懸賞小説に安江が当選したのである。電報がくる。記者がやってくる。路地の向うに自動車がとまって、写真班までが押しかけてきて、そんな中で安江はうろうろした。

小説の題名は「子守歌」というのだった。文吉に「お前童話をかけよ。」といわれた時から、安江の気持の中にはずっとそれがあたためられていたらしい。母や祖母の歌った子もり歌、音枝という子を育てながらの自分の子守歌、そこへまた冬太郎を迎えて歌う音枝の子守歌、安江の心中にあたたまっていたものは、音枝のその子守歌を聞いたことでわき出し、ふきこぼれたのである。

――おめでとう。おめでとう。

友人たちが次々とやってきて喜んでくれるそのたびに安江はあかくなり、落ちつけなくなった。