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ざっきょかぞく

雑居家族

壺井 栄

「毎日新聞」1955(昭和30)年3月25日~8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,106 字 · 283 页

青空文庫

いつもの音枝である。

「乗るの、よそうね。」

安江は、うしろから高井戸ゆきの電車が走ってくるのをみてそういった。三軒茶屋で何か買ってやろうと思ったからだ。電車道の両側に夜店がならんでいた。

「花でも買おうか?」

若い娘の心になったつもりでいうと、

「うん。」

と、音枝はもうてれてはいない。

「昔さ、音枝がうちへきた日、私は菜種の花を仰山買って帰ってね。」

「冬坊の時よ、それ。」

音枝は七年も前のことをよく覚えていた。

「ああ、冬坊の時もそうだったがね……」

安江は、そのことを「子守歌」の中に書き忘れたことに気がつき、ひそかに残念がりながら、電柱のかげに小さく店をひろげている花屋の前に立ちどまっていた。

「いらっしゃい。いかがですかオランダしょうぶ。」

まだ子供っぽい顔をした青年が、いかにもしろうとらしく、気弱な様子で安江にうったえる。オランダしょうぶのほかには何もない花屋だった。十銭買うとかかえるほどあった。ほんとにそれを胸にかかえて、満足そうに歩く音枝と肩をならべながら、安江はふと、兵六さんを思いだしていた。「子守歌」がもしも兵六さんの目にとまっていたならば、彼はどう思うだろうと考えいたると、いささかの気の毒さとともに顔が赤らんだ。