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ざっとう
雑沓
宮本 百合子
「中央公論」1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,832 字 · 50 页
「…………」
「どう思う? それっきりだろうか。そりゃたしかにそういうのもいる。だけれど、本気に自分たちが書くべき新しい歴史というものを考えて努力している者だっている。そうじゃない? もし旧い時代から一歩も出ないで生きるのなら、何のために私たちは子として生れて来たのさ。何処に親より二十年も三十年もあとからこの世に出て来た意味があるのさ。キプリングがダブリン大学へ行ったときね、学生に向って第一に云ったことは、私は君等を嫉妬する。そう、深く嫉む。何故なら君達は、若いから。そう云う言葉を云ったんだって。――本当に未来は我等のものなり、だし、我らは未来のものなり、なんだと思う。だから、妥協しちゃいけない」
やっぱり膝をゆすりながら、順二郎が、
「姉ちゃんは、よく考えている」
と云った。
「よく勉強してる――」
宏子の爽やかな顔に赧みがのぼった。
「勉強じゃないわ。――ただね、私のここんところに」
左の手のひらを宏子はきつく自分の胸に押しあてた。
「何かが在る。それがじっとしていないの。分るだろう?」
姉弟は、さっきと同じ灯の下ではあるが、暗と光とが一層濃さを増したように感じられる夜の小部屋の雰囲気の中に、暫く黙ってかけていた。