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ざっき(いち)

雑記(Ⅰ)

寺田 寅彦

「中央公論」1922(大正11)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,568 字 · 33 页

青空文庫

しかしケンプェルの挿絵の中にある日本を思いがけないところで見付け出しただけはこの日の拾い物であった。

二 雅楽

友人の紹介によって、始めて雅楽の演奏というものを見聞する機会を得た。

それは美しい秋晴の日であったが、ちょうど招魂社の祭礼か何かの当日で、牛込見附のあたりも人出が多く、何となしにうららかに賑わっていた。会場の入口には自動車や人力が群がって、西洋人や、立派な服装をした人達が流れ込んでいた。玄関から狭い廊下をくぐって案内された座席は舞台の真正面であった。知っている人の顔がそこらのあちこちに見えた。

独立な屋根をもった舞台の三方を廻廊のような聴衆観客席が取り囲んで、それと舞台との間に溝渠のような白洲が、これもやはり客席になっている。廻廊の席と白洲との間に昔はかなり明白な階級の区別がたったものであろうと思われた。自分の案内されたのはおそらく昔なら殿上人の席かもしれない。そう云えばいちばん前列の椅子はことごとく西洋人が占めていて、その中の一人の婦人の大きな帽子が、私の席から見ると舞台の三分の一くらいは蔽うのであった。これは世界中でいつも問題になる事であるが、ことにああいう窮屈な場所では断る事にした方が、第一その婦人の人柄のためにかえってよくはないかと思われる。