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おしゃく

雛妓

岡本 かの子

「日本評論」1939(昭和14)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,482 字 · 53 页

青空文庫

それはわたくしの意識をして、今にして夢より覚めたように感ぜしめ、また、新なる夢に入るもののようにも感ぜしめた。肉体の悄沈などはどこかへ押し遣られてしまった。食ものさえ、このテーマに結びつけて執拗に力強く糸歯で噛み切った。

「そーら、また、お母さんの凝り性が始まったぞ」

息子の一郎は苦笑して、ときどき様子を見に来た。

「今度は何を考え出したか知らないが、お母さん、苦しいだろう。もっとあっさりしなさいよ」

と、はらはらしながら忠告するほどであった。

葬列は町の中央から出て町を一巡りした。町並の人々は、自分たちが何十年か聖人と渾名して敬愛していた旧家の長老のために、家先に香炉を備えて焼香した。多摩川に沿って近頃三業組合まで発達した東京近郊のF――町は見物人の中に脂粉の女も混って、一時祭りのような観を呈した。葬列は町外れへ出て、川に架った長橋を眺め渡される堤の地点で、ちょっと棺輿を停めた。

春にしては風のある寒い日である。けれども長堤も対岸の丘もかなり青み亘り、その青みの中に柔かいうす紅や萌黄の芽出しの色が一面に漉き込まれている。漉き込み剰って強い塊の花の色に吹き出しているところもある。